手根管症候群

手根管症候群とは

手根管とは手首の骨(手根骨)と靭帯に囲まれているとされるトンネルのような空間のことをいいます。
トンネルの中は正中神経と指屈筋腱(指が曲がるようになる9本の腱)が通っているのですが、この手根管で正中神経が圧迫などを受けてしまうことで、手の親指、中指、人差し指などに痛みやしびれなどがみられます。

中高年女性に発症しやすいとされ、多くは特発性(原因不明)とされています。
ただ、手を酷使する仕事、手首の外傷や腫瘤のほか、甲状腺機能低下症をはじめ、糖尿病、痛風などの病気によって手根管症候群を発症することもあります。

主な症状ですが、正中神経は親指から薬指の親指側半分までの領域を支配しているのですが、これらの指でしびれや痛み、脱力などがみられます。
また、これらの指を使う動作がしにくくなります。

治療をする場合ですが、保存療法が中心となります。
まず安静に過ごします(手指を酷使させない)。また、痛みの症状にはNSAIDs、炎症を抑えるためのステロイド薬の局所注射のほか、神経を回復させる効果が期待できるビタミンB12の内服などの薬物療法が行われます。さらに手首を固定させるための装具療法を用いることもあります。

上記の治療だけでは改善が乏しいとなれば、手術療法が検討されます。
この場合、圧迫を受けている正中神経を開放すべく、屈筋支帯を切り離していく手術(手根管開放術 等)が行われます。

肘部管症候群

肘部管症候群とは

肘の内側後方を通っている神経(尺骨神経)が、何らかの原因によって圧迫等を受けるなどして、主に手のひら側の小指と薬指半分(小指側)の範囲にしびれなどの症状がみられている状態を肘部管症候群と言います。病状が進行するとかぎ爪指変形や手の筋肉がやせ細るなどしていきます。

発症の原因に関しては、腫瘤(ガングリオン 等)による圧迫、加齢や骨折等のケガによる肘の変形、スポーツや仕事等での肘の酷使などが挙げられます。

治療の内容は症状の程度によって異なります。軽度の場合は、まず肘を安静にします。必要であれば薬物療法として、痛み止めの薬(NSAIDs)、神経を修復させる機能があるとされるビタミンB12を服用するなどしていきます。

上記の治療だけでは症状が改善しない、病状(麻痺)が進行していると判断されると、神経を圧迫しているとされる靱帯の切断や腫瘤(ガングリオン 等)の切除などの手術療法が行われます。

橈骨神経麻痺

橈骨神経麻痺とは

橈骨神経は、腕の後面を走行し、手首や指を伸ばす筋肉(伸筋群)を支配する運動神経であり、また前腕・手背の感覚にも関与する感覚神経です。この神経が圧迫・損傷されると、手首や指が伸ばせなくなる「下垂手(drop hand)」や、手背のしびれ・感覚鈍麻などが起こります。
軽度であれば数週間〜数ヶ月で自然回復することも多い疾患です。

主な原因

原因 説明
長時間の圧迫 深酒後に腕枕で寝る「Saturday night palsy」など
骨折 上腕骨骨幹部骨折による神経損傷
手術後 上腕や肘周辺の手術に伴う神経障害
外傷 打撲や脱臼による神経損傷
腫瘍・
嚢胞
神経周囲の病変による圧迫

症状は手首・指が伸ばせない(下垂手)、手背(親指〜中指の背側)の感覚障害、前腕後面のしびれが挙げられます。
※障害部位によって症状の範囲が異なります(例:肘より遠位での障害では手背の感覚障害のみ)

治療は多くは保存療法で改善しますが、重症のものや改善しない場合は手術が必要になります。
保存療法は

  1. 安静・圧迫回避:原因となる姿勢や習慣の改善
  2. 装具療法:下垂手に対するスプリント装着
  3. リハビリテーション:関節拘縮予防の可動域訓練・筋力維持・回復のための運動療法
  4. 薬物療法

があります。

ばね指

ばね指とは

弾発指ともいわれ、指に引っ掛かりなどを感じるようになります。同疾患は、機械的な刺激によって引き起こされる炎症が原因となるので、手指をよく使う方に発症しやすくなります。
また更年期の女性、妊娠・出産期の女性にもみられることから女性ホルモンと何かしら関係があるのではないかといわれています。
上記以外にも、関節リウマチ、糖尿病、人工透析の患者様などにも併発することがあります。

発症部位は、MP関節の周囲にある屈筋腱腱鞘で起きるとされ、なかでも中指もしくは親指でよく見受けられます。
同部位で腱鞘炎が起きると滑液鞘(腱鞘の内層)が肥厚化するなどします。これによって指の曲げ伸ばしがスムーズにいかず、引っ掛かりを感じたり、バネみたいに弾けるように伸びたりします。
この現象によって一般的には、ばね指と呼ばれるようになりました。

主な症状ですが、軽度の場合は、手指の付け根に痛みや腫れ、熱感などがみられます。ある程度病状が進行すると、指に引っ掛かりとそれに伴うばね現象がみられるようになります。
なお重度になると指を動かすことも困難となります。

治療の中心は保存療法となります。この場合、患部を安静にします(シーネ固定 等)。また痛みや炎症を軽減させるためにNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)の外用薬や内服薬も使用します。
痛みの症状が強ければ、ステロイド薬の局所注射となります。

上記の治療法などでは改善が困難であれば、手術療法を選択し、腱鞘切開などを行うこともあります。

ヘバーデン結節・ブシャール結節

へバーテン結節とは

手指の第1関節のことをDIP関節といいますが、その関節で起きる変形性関節症です。
40代以降の女性に多くみられるとされ、1つの指でしか起きないこともあれば、複数以上の指で起きることもあります。

発症初期はDIP関節に腫れや痛み(指先に力が入ると痛む)が現れます。
病状が進むと安静時も痛むようになり、さらに進行すれば結節や指の屈曲変形なども現れます。

治療をする場合ですが、腫れや痛みが強ければ、湿布や軟膏などの外用消炎鎮痛薬を使用するほか、テーピングや装具による固定を行います。
変形が強い、保存療法のみでは改善が困難という場合は、手術療法が適用されることもあります。

ブシャール結節とは

手指の第2関節のことをPIP関節といいます。
同関節で起きる変形性関節症のことをブシャール結節といいます。
病態については、へバーテン結節と同様で、同疾患と併発していることも少なくないです。ちなみに指の変形性関節症は、第1および第2関節で起きるのに対して、関節リウマチは第2および第3関節で発症するようになります。
第2関節のみの症状だと、どちらかわかりにくいこともありますが、しっかり鑑別を行います。

なお治療につきましては、へバーテン結節と同じ内容となります。

関節リウマチ

関節リウマチとは

関節リウマチを含むリウマチ性疾患については、発症メカニズムが特定されてはいませんが、遺伝的要因や環境要因、何らかの感染症等によって、自己免疫に異常が起きて発症するようになると言われています。

主な症状ですが、関節であればどの部位でも炎症が起きる可能性があります。その炎症によって、関節に腫れや痛みがみられます。
初期症状としては、朝に手の指がこわばる(30分以上)ことがあります。また症状が進行すると、可動域制限や関節の変形、破壊などが起きるようになります。
発症しやすい部位は、手指、肘、肩、膝、足指などが挙げられます。また同疾患で関節に腫れ等がみられると左右対称で症状が出やすい特徴もあります。このほかにも全身症状として、発熱(微熱程度)、強膜炎等の眼症状、全身の倦怠感、体重減少、リウマイド結節による皮膚症状、貧血などがみられます。

患者様の症状などを確認し、関節リウマチが疑われると診断をつけるための検査をしていきます。この場合、血液検査を行い、炎症の有無や程度(CRP、血沈)、関節リウマチを発症すると発生しやすい物質(リウマトイド因子、抗CCP抗体 等)の有無などをみていきます。
このほか、関節の状態や骨の変形を調べるための画像検査(X線撮影、MRI検査 等)なども行っていきます。

治療について

関節リウマチを完治させることは難しいです。そのため治療の目的は、関節の腫れなどの症状をできるだけ抑え、関節破壊に至らないようにする、いわゆる寛解の状態にしていくことになります。

治療の基本は薬物療法で、免疫抑制薬(メトトレキサート 等)や生物学的製剤(発症の原因とされるリスク因子を抑制させる効果があるとされる薬剤で、注射もしくは点滴)が用いられます。炎症などの症状に対しては、非ステロイド性抗炎症薬等が使われます。また、痛みがあるからと安静のままにしておくと関節可動域が狭まるなどします。そのため、無理のない程度で運動器リハビリテーションも併行して行っていきます。

なお薬物療法では症状が改善しない、関節が破壊してしまったとなれば手術療法が選択されます。肘関節や膝関節であれば人工関節置換術、足指については中足骨頭切除術、手指、手関節、足関節では関節固定術などが行われます。

ドゥケルバン症候群

ドゥケルバン症候群とは

狭窄性腱鞘炎とも呼ばれます。これは、2つの腱(短母指伸筋腱、長母指外転筋腱)が通るとされる親指付近にある手首の腱鞘(第1腱区画)で起きる腱鞘炎のことです。
同疾患は、女性(とくに妊娠・出産期、更年期)、手指を酷使する方に発症しやすいとしています。

主な症状ですが、腱鞘炎が起きやすい部位(第1腱区画)において、手を動かす際(運動時)の痛み、腫脹、親指の動かしにくさなどがあります。

治療をする場合ですが、まずは患部を安静にさせます。
痛みや腫れについては、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の外用薬、もしくは内服薬が用いられます。症状が強く出ているという場合は、ステロイド薬を腱鞘内に注射していきます。

保存療法では、効果がないと判断されると手術療法(腱鞘切開手術 等)が検討されます。

TFCC損傷
(Triangular Fibrocartilage Complex損傷 三角線維軟骨複合体損傷)

TFCC損傷とは

TFCCは、尺骨(小指側の前腕の骨)と手根骨の間にある軟骨・靱帯・腱などの複合組織です。TFCC損傷は、この複合組織が外傷や加齢、繰り返しの負荷によって損傷される状態です。特に手首の小指側の痛みやクリック音、不安定感が主な症状です。

主な原因

原因 説明
外傷 転倒して手をついた、手首を強く捻ったなど
繰り返しの負荷 テニス・野球・ゴルフなどの回旋動作
加齢変性 中高年以降の軟部組織の変性による自然損傷
解剖学的要因 尺骨が橈骨より長い(尺骨突き上げ症候群)と負荷が集中しやすい

軽症から中等症の場合は保存療法がおこなわれます。
具体的には

  1. 安静・固定:手関節をスプリントや装具で固定
  2. 消炎鎮痛剤:痛みと炎症の緩和
  3. リハビリテーション:可動域訓練(痛みが落ち着いてから)、前腕・手関節周囲筋の強化

です。
重症の場合や保存療法で改善しない場合は手術療法となります。

橈骨遠位端骨折

橈骨遠位端骨折とは

前腕、いわゆる手首から肘の間には太い骨と細い骨の2本の骨があります。これらの骨が前腕で並列あるいは交差しているのですが、太い骨の方が橈骨です。遠位端とは手首側のことを言います。つまり橈骨遠位端骨折とは、橈骨が手首側で骨折している状態になります。

原因としては、骨粗しょう症の患者様が転んだ際に手をついて骨折するというケースが多いです。
上記以外にも、橈骨の手首側に強い外力(転倒、交通事故 等)が加わることで発症することもあります。

なお骨折することで手首に強い痛みや腫れ、手に力が入らないなどの症状がみられるようになります。

治療に関してですが、まず医師による骨の整復が行われます。その後は固定(ギプス、または手術によるプレート固定)していきます。さらに骨の固定が順調であれば、数日後には運動器リハビリテーション(手首の運動 等)を行っていきます。

舟状骨骨折

舟状骨骨折とは

手首の関節にある8つの手根骨の1つである舟状骨が骨折した状態で、スポーツや交通事故などで手首を手の甲側に曲げて手を強くついた時によく起こります。

急性期では手首の親指側が腫れ、痛みが伴います。
急性期を過ぎると一時的に症状は軽くなりますが、放置して骨折部がつかずに偽関節(骨折した骨がつかず、関節のように動くもの)になると、手首の関節の変形が進行し、手首に痛みが生じて動かしにくくなります。

治療に関してですが、保存療法ではギプス固定などが行われます。
ただ長期間の固定というのは、日常生活に支障をきたすこともあるので要注意です。

また骨がうまく癒合しないなど、治りがよくないと判断されると、手術療法(内固定手術 等)が選択されます。

尺骨突き上げ症候群

尺骨突き上げ症候群とは

尺骨突き上げ症候群は、尺骨遠位端が手根骨(特に月状骨)やTFCCに繰り返し衝突することで軟骨・靱帯・軟部組織に損傷が生じる状態で、手首の小指側(尺側)に慢性的な痛みや機能障害を引き起こす疾患です。特に尺骨が橈骨よりも長い「尺骨高位(positive ulnar variance)」の状態で起こりやすいです。衝突(インピンジメント)による摩耗や炎症が進行すると、手関節の痛み・可動域制限・握力低下などが現れます。

主な原因

原因 説明
解剖学的要因 尺骨が橈骨より長い(先天的または成長過程での差)
外傷後 橈骨遠位端骨折後の変形癒合による相対的尺骨高位
繰り返しの負荷 スポーツ(テニス・野球・体操など)や手作業による微細外傷
加齢変性 軟骨やTFCCの摩耗による二次的な衝突

治療は、症状が軽度であったり初期の場合は保存療法(安静・固定:手関節のスプリント装着、消炎鎮痛剤、リハビリテーション)が行われます。
保存療法で改善しない場合は手術療法がおこなわれることもあります。